PART III宗教と文明のヒストリー13千年を旅する
五千年。文字が発明されてからで考えてもそのくらいの時間が経っている。私たちの寿命が百年近くになってきたといっても、五千年は十分長い。
でも、驚くべきことに、私たちははるか遠い昔の古代世界について何も知らないわけではない。それこそ文字によって書き残された神話をはじめとする記録があるからだ。
かつて人びとは、どんな神様を崇めたり祀ったりしたのか。そこにはどんな思いが込められていただろうか。
神話などといえば、科学や技術が発達した現代には無縁のつくり話だと思うかもしれない。
でもどうだろう。日本では、いまでも神社やお寺に参ったりするし、ゲームなどでも世界中の神様が引っ張りだこだ。
それだけではない。私たちが生きている現代は、古代からの歴史の積み重ねのうえにある。歴史に名の残る英雄たちだけでなく、名もない人びとの生活や風習が、お祭りや民俗としていまも社会のあちこちに名残を留めている。
例えば、文化人類学者や民俗学者たちは、そんな文化の謎に迫る探偵のようだ。
かれらは異郷の地を訪れて、その土地の暮らしや風習を観察する。現地の人びと、インサイダーにとっては当たり前すぎてことさら自覚していないことも、外からやってきたアウトサイダーの目には見える。
また、そうした異郷での観察を終えて自分の土地に帰ると、今度は見てきたものとのちがいに気づく。そんなふうに、その気になれば、身近な場所にも見知らぬ歴史の景色が広がっていることが見えてくる。
コツはインサイダーの目とアウトサイダーの目を重ねること。
現在に過去の痕跡を見てとる異次元の目を鍛えるための本たちをご紹介しよう。千年の旅に出よう。
80神話から想像する
世界中の物語には共通の型がある
世界には同じ型を持つ神話や昔話がたくさんある。さまざまなヴァージョンが各地に散らばっている。たとえば、シンデレラや浦島伝説。物語の母型は共通回路として人間の心に刷り込まれている。ワンパターンな設定なのについつい感動してしまうのはそのためだ。本書は世界で共通する物語を求めて、神話をめぐる。物語の原型はここにある。
81すげぇお祭り
日本のプリミティブで異形な芸能たち
「カッカッカーのカッカッカー」と歌いながら焚き火を囲んで踊る山形県のお祭り・カセ鳥。鹿児島県の盆行事・ボゼは奇抜な仮面をかぶった男性が女性を追いかけまわし赤い泥土をすりつける。プリミティブで異形な芸能が日本にはまだまだ埋もれている。存続の危機が大問題だ。消えてしまったらあまりにももったいない。西村祐介の鮮やかな写真で目に焼き付けてほしい。
82日常を掘り起こす
カメラを手にした90年の記録
カメラを手にして90年、写真家・芳賀日出男は世界中のお祭り、人と神の交わりを撮影してきた。炎に突っ込んだり、巨人を祀ったり、奇妙な仮面をかぶったり、人間は異界との交流を捨てることができない。どんなにテクノロジーが進化しようとも、伝統芸能や祭りが廃れようとも、これが人間だ!
83異文化に恋をする
文化人類学者が描く本格昆虫SF
マンガ家であり文化人類学者でもある都留泰作の本格昆虫SF。ムシヌユンは沖縄の方言で虫の世という意味。昆虫博士を夢見る主人公・秋人の故郷である沖縄・与那瀬島が物語の舞台だ。秋人の頭脳は性欲と昆虫に支配されている。いつも暴走気味。突如、謎の生命体に局部を改造されてしまう・・・。
84攻める偉人たち
アレクサンダー大王の書記官の人生
アレクサンダー大王の書記官を務めたエウメネスが主人公だ。ストーリーは史実にもとずいて展開される。哲学者・アリストテレスを含めて登場人物はほとんどが実在した人物。世界史の勉強の強い味方になってくれるはず。アレクサンダー大王の影響力は日本の仏像にも及ぶ。アルカイック・スマイルは習ったかな?