PART III宗教と文明のヒストリー16幻想の国NIPPON
八百万の神とは、日本の誕生から黎明期を描いた『古事記』に見える言葉。数え切れないくらい神様がいるというわけだ。
そのつもりで日本の歴史を眺めてみると、どうもこの国には、いつも神や仏やモノノケがいたようだ。
例えば、平安時代の陰陽師たちは、天のあやを読み、未来の吉凶を占うばかりでなく、式神と呼ばれる神を使っていたという。物語には鬼はつきもので、『源氏物語』には怨霊も顔を出す。
そうかと思えば、昔話はもちろんのこと、明治の世にいたるまで、この国にはそこかしこに妖怪がいたらしいことも、各種の記録に残っている。
鬼や鵺といったよく知られたモノノケはもちろんのこと、百鬼夜行というほどに多種多様なヴァリエーションがあるのは、さすが八百万の神の国というべきか。
さすがに21世紀の現在、神もモノノケもいなくなったかと思えばそんなことはない。マンガやアニメやゲームといった創作物では、いまでも大活躍中である。考えてみたら、全国津々浦々にいるゆるキャラたちだって、そうしたものたちの末裔かもしれない。
それもそのはず、『古事記』この方、日本の歴史には、創作家たちを刺激せずにはおかない汲めども尽きぬ幻想の泉がそこかしこに湧いている。
夢か現(うつつ)か幻か。
そんなあわいに遊ぶ楽しさを味わわせてくれる逸品を選んだこのリストで、幻想の国NIPPONに遊んでみよう。まずはどこからなりともお気に召すまま手にとってご覧あれ。
100日本は神話の国だった
ミステリアスでイケメンの天才王子
日本史上、聖徳太子ほど謎だらけの有名人はいない。マンガ史上、山岸凉子だけがパーフェクトにマンガ化に成功した。ミステリアスで大胆な仮説、美貌の天才王子・聖徳太子の書きっぷりにクラクラしたい。忘れてはならいのがもう一人の主人公・蘇我毛人。聖徳太子は毛人に狂おしいほど執着する。悲劇の幕開けだ。
101雅びな世界
京の都で平安クライム・サスペンス
京随一の女好き・在原業平と引きこもりエリート・菅原道真。最強バディが都で起こる怪異を解き明かす平安クライム・サスペンスだ。シャーロック・ホームズのような、ドラマ「相棒」のような二人組のバディストーリーに心躍る。日本史好きもサスペンス好きもマンガ好きも、みんなで、平安時代に舞い降りてほしい。
102浄土を求めて
ニッポンのスーパーヒーロー・安倍晴明
鬼や怨霊が平安時代の都で怪事件を引き起こしていた。闇の世界に通じていた陰陽師・安倍晴明と源博雅がそれをつぎつぎ解決していく。安倍晴明は平安から現代にいたるまで歌舞伎や文学、マンガや映画に登場し、呪術のスーパーヒーローとして愛されてきた。絶大な人気の秘密はいったいなんだろう?
103妖怪だらけ
亀が登場しない浦島太郎!?
舌切り雀や浦島太郎、一寸法師やかぐや姫。誰でも知っている昔話が収録されていると思いきや、花輪和一のニッポン昔話は何か変だ。独自の花輪ワールドが随所に散りばめられている。昔話には正典がない。正解がない。どうアレンジするかが表現の見せどころ。まったく新しい昔話にシビれる。
104弱き者を愛せよ
けなげで美しい日本版スーパーガール
中世に成立した口承文芸で、ベェン、ベェンという三味線の演奏とともに語られるのが説経節。説教と言ってもお説教ではない。小栗判官はオグリとテルデ姫のラブストーリーだ。けなげで、美しい、日本版スーパーガール・照手に男子も女子も一目惚れ。
105マンガのルーツは絵師にあり
歌麿も写楽も北斎もみんなトモダチ
歌麿、写楽、北斎、広重はなんとなくは知っているはず。これが鈴木春信、国貞、国芳、河鍋暁斎となるとだんだん分からなくなる。落合芳幾、豊原国周、月岡芳年はもうサッパリ。でも、このマンガなら萌えて学べる!? 乙女の為の浮世絵師マンガが誕生した。
106利休はヤバイ
お調子者でアヴァンギャルドな利休の弟子
へうげものとはお調子者、ふざけた奴というような意味。古田織部はたしかに自由奔放だった。信長、秀吉、家康に仕えた武士であり、利休の茶の湯の精神を継承した茶人でもあった。ゆがみをやひずみを意図的にほどこしたアヴァンギャルドな茶碗・織部焼を発明し、一世風靡。好みをとことん突き詰める姿がカッコイイ!