立ち止まっている人が、
行動するきっかけをつくる。
徳 瑠里香(とく るりか)さん
編集者
「編集者とは、人と人とをつなぐ媒介者。」
- —編集者とは、どんな仕事なのでしょうか。
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書籍や雑誌、WEBメディアを読みたいと思ってもらえるよう、魅力的につくりあげる人ですが、一言で定義するのは難しく、いろいろなタイプの編集者がいると思います。
私は、「人と人とをつなぐ媒介者でありたい」と思っています。以前は書籍の編集を、現在はWEBメディアの編集を中心に行っていますが、あくまでも本やWEBは、人と人とをつなぐための手段。
目的は、人と人をつなげることで、新たな考えが生まれたり、行動するきっかけを与えていきたいと思っています。だから手段は、本でもWEBでもイベントでもいいし、ある意味なんでもいいのかもしれません。
私自身が文章を書いてもいいし、誰かに書いてもらってもいい。
伝える人や内容、受け手に合わせて、最適な伝え方を考え実践し、その影響力を最大化していくのが編集者の役割だと思っています。たとえば、グローバルシェイパーズのように、社会を変えようとさまざまな活動をしている人がいます。
彼らの活動や存在を誰かに伝えることで、受け手である誰かが社会を変えようと動き出すかもしれません。
私自身が直接、社会を変えることができなくても、世の中がポジティブになるような、きっかけの連鎖をつくっていきたいんです。 - —若者をターゲットに生き方を伝授する本を集めた「U25サバイバルマニュアルシリーズ」は、どんなきっかけづくりを目指して生まれたのでしょうか?
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出版社に入って、2年目の頃でした。
社会に出たばかりで、わからないことだらけ。
リーマン・ショックの年に就職活動をしていたこともあり、世の中の景気も悪く、自分も含む同世代の人たちが、将来に不安を感じ、その先の働き方に悩んでいました。何かしなきゃと焦っているけど、何をすればいいかわからない、同世代に厳しい時代を生き抜いていけるようになるきっかけを届けよう。
しかも、雲の上の成功者ではなく、自分たちと同じ思いを共有できる同世代による等身大のメッセージを伝えよう。それで生まれたのが、U25がU25に贈る、社会を楽しく生き抜くためのサバイバルマニュアル、「U25 SURVIVAL MANUAL SERIAS」でした。
どんなにいい情報も届かなければ、意味がありません。
本がなかなか売れなくなっている時代ですから、レーベルとして立上げ、いろんな切り口でサバイブするための本をどんどん出して行ったんです。そして、WEBサイトをハブに、本だけではなく、刊行後に著者を招いたイベントも開催しました。
1周年の記念イベントには、20代限定にもかかわらず、300人くらいの若者たちが集まりました。わざわざ連絡して会いにきてくれて、興奮しながら夢を語ってくれた大学生もいました。
著者と読者をつなげることで、考え、行動するきっかけを与えることができたのかなと思い、うれしかったですね。若い人は本を読まないと言われますが、そんなことはないと思っています。
魅力的な情報を、適切な伝え方をすれば、ちゃんと必ず届くはずです。
「私の記事が、妹が人生を決めるきっかけになった。」
- —編集者になったきっかけを教えてください。
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明確に編集の仕事を意識したのは、大学2年生のときです。
なんとなく昔から編集やライターの仕事に憧れや興味はあったのですが、どうやってなればいいのかわからなかったので、出版社が主宰している編集者の養成講座に参加しました。
スキルを身につけたいというよりも、一流の編集者やライターに会って、話を聞きたいという思いが強かったです。その講座の最後に卒業制作というものがあって、自分の好きなテーマで記事をつくる課題を与えられました。
私は、助産院をテーマに選びました。
実は、高校時代に仲の良い友人が出産を経験し、子どもを産み育てるということを身近で見ていたため、興味があったんです。普通の大学2年生ですから、当然、取材したこともありません。
わけもわからないまま、東京の国分寺にある助産院に電話して、話を聞きたいとお願いして、何度も何度も通いました。初めて見た自然分娩の出産現場や、助産師さんが置かれている厳しい現実に衝撃を受けました。
取材を通じて、見聞きし感じたままに記事を書いたんです。そうしたら、私の卒業制作の記事が最優秀作品に選ばれたんですね。
技術や経験が一切ないからこそ、変な先入観もなく、素直に知りたい、伝えたい、という強い思いが記事にあらわれていたのかもしれません。その記事は、講座を主宰していた出版社の雑誌に掲載されました。
「自分の書いた文章だ」って、嬉しかったですね。記事を読んでくださった方から、うれしい感想もいただきました。
実家に住む私の妹は、その記事で初めて助産師の存在を知り、新たな命をとりあげる助産師の仕事に憧れて、現在、看護学校に通っています。小さな記事ではありましたが、誰かの人生を変えるような影響とまではいかなくとも、行動するきっかけを与えられる仕事なんだ、ということを実感しました。
そして、編集者になることを決めて、出版社に入ったのです。
「世界を広げたくて、好奇心のおもむくまま行動した。」
- —どんな高校時代でしたか?
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地方の進学校に通っていました。
当時から、好奇心が旺盛だったと思います。
ハンドボール部に入って、生徒会で文化祭実行委員をやっていたり、その時に楽しいなと思うことに積極的に取り組んでいました。みんなで一つの目標に向かって、達成していくのが好きでしたね。
その感覚は、著者やデザイナー、カメラマンなどいろいろな人たちと一緒に本をつくっていく、今の編集の仕事に似ているかもしれません。将来については、高校時代から本や新聞といったマスコミの世界に行きたいと思っていました。
編集者やライターといった具体的な職業まではイメージしていませんでしたが、「人に会って、聞いた話をたくさんの人に伝えたい」って、思っていましたね。書くことも好きでした。いとこの作文を手伝ったり、新聞に投書して、図書券をもらって本を買ったり。その投書を読んだ近所のおじさんが「お、見たぞ」とか感想を言ってくれたりすると嬉しかったですね。
- —やはり本は好きだったのでしょうか?
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本は好きでした。
地方の田舎の公立高校に通っているだけでは知り得ないことを本が教えてくれて、自分の世界が広がっていきました。ただ、本を読む以上に人が好きなんだと思います。
人と会い、話すことが好き。
人との出会いによって、私自身が応援されて、頑張れたこともたくさんありました。
人との出会いって、行動をおこすきっかけになると思うんです。だから、いろいろな人に会って、見聞きしたことを多くの人に伝えていくマスコミの仕事に興味があったのだと思います。
そう思いはじめたら、好奇心の方がどんどん強くなってきて、受験まで待てずに、すぐにでも東京に行きたい!って思っていましたね。
でも、当時の先生が、マスコミの仕事がしたいなら、大学行って教養を身につけなきゃダメだと諭してくれて。当たり前ですが(笑)
なので、大学行きたい、というよりもその先にある、東京でマスコミの仕事をしたい、いろんな人に出会って、いろんな話を聞きたい、という思いの方が強かったですね。
「やる意味が見つかれば、受験だって楽しくなる。」
- —心がけていることは、ありますか?
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自分がやりたい!と思ったこと、会いたい!と思った人、行きたい!と思った場所など、自分の心が反応したことに素直に向かっていくことでしょうか。
私は高校時代に編集者やマスコミの仕事は面白そうだ!と思って、いろいろ行動して見聞きして、大学で編集者になろうと決めました。
でも今、編集者として、生涯をかけて、追い求めたいテーマが具体的にあるわけではありません。
自分の人生をかけて、何か一つのことに打ち込んでいる人はかっこいいし、尊敬していますが、私自身は、今はまだ一つのことに決め込まずに、いろんなものを見て、その可能性を広げていきたいと思っています。あと、大切だと思っているのは、自分の頭で考えて、行動することですね。
現代には情報が溢れています。
同じことに対しても、「いい」という人もいれば、「悪い」という人もいる。
情報に触れた時に、それをただ鵜呑みにしないでほしいと思います。
「悪い」という情報にしか触れずに、何も考えなかったら「悪い」と思ってしまいますよね。
本当は、「いい」ことなのかもしれないのに。そこが情報の怖いところです。傍観者にならずに、当事者意識を持って、まずは何事にも「これ本当かな?」って考えてほしい。
そして、自分なりの答えを出して、行動してほしいと思います。 - —受験も同じでしょうか?
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受験に対しても、みんなが受けるから、先生や親から言われたから、ではなく、なんで受験するのかな?と一度疑問を持ってもいいかもしれませんよね。
とにかく自分の頭で考えてみる。
自分なりの受験する意味が見つかれば、それはパワーになると思うんです。それに受験勉強って、高校生の特権だと思います。
大人になると、もっと勉強しておけばって思いますからね。
学んだことは、直接的ではなくても、絶対にその後の人生で活きていくと思います。ゲーム感覚でもいいから、自分が楽しんで、頑張れる意味を見つけてほしい。
やらされることほど、つまらいないことってないですよ。受験のその先に何かがある、って思えれば、ツラいことも楽しくなるし、パワーもでる。
つまずいた時に答えを出すのは、いつだって自分ですから。
徳 瑠里香(とく るりか)さん
編集者
・1987年愛知生まれ。26歳(2014年3月現在)。
・慶應義塾大学卒。出版社を経て、フリーランスの編集者、ライター。
・U25がU25に贈るU25サバイバルマニュアル本のシリーズを企画。
・WEBメディア・現代ビジネスでは、編集者、ライターとして連載を担当。