竹工芸の伝統技法を用い、竹籠をもとにしたバッグを制作しています。ものを作る際は「すごい」と言われるよりも「欲しい」と言われるものを作りたいです。それは京都伝統工芸大学校(TASK)時代から変わりません。しかし、伝統工芸は周りから見ればどんどん特別なものになってきています。仕事としては特別でも、作るものは特別になってほしくありません。バッグなのに、ずっと飾られているのではなく、バッグとして使ってほしい。孫の代まで受け継いでもらって「これおじいちゃんの」と、使っていた方の姿と一緒に思い出してもらえるのが理想です。
TASKに入学したのは31歳の時。それまで企業で働いていたのですが、ものづくりが好きでした。その極みと言える伝統工芸をやろうと思ったのです。竹工芸を選んだのは、伝統工芸の中で最も情報が少なく、取っ掛りが見えなかったからです。これは競争が少ないというのを意味していると思いました。
TASK時代は、ずっと練習していました。よく覚えているお二人の先生の言葉があります。お一人は「ええもんを作っていたら自然と売れていく」とおっしゃっていました。また、別の先生からは「作っているだけでは、今はやっていけない」と言われました。当時は真逆のことのように思っていたのですが、「いいものを作ること」「作るだけでなく考えること」、工芸を生業としている今、どちらもとても大事なことだとお二人の言葉を実感し、噛み締めています。今の暮らしにマッチし、もっと使ってもらえる竹バッグを考案したのも、こうしたTASK時代の経験があったからこそです。
竹工房「喜節」主宰/伝統工芸学科 竹工芸専攻/2007年3月卒/竹工芸士(編組)一級技能士。京もの認定工芸士(京竹工芸)。2018年度全国伝統的工芸品公募展で最高賞である内閣総理大臣賞を受賞。