東京コレクションデビューは2007年春夏。2004年にFACTOTUMというブランドを立ち上げてから3年目のことでした。それまで、ビジュアルブック制作によるブランドイメージ構築を行ってきた僕にとって、ランウェイ形式の、わずか10分のショーの中での表現というのは全く未知の分野。しかし、ショーだからできること、ショーでしかできないことの可能性を追求していく作業は、とても魅力的なものであり、快感そのものでした。限られた時間や空間、様々な制約や条件の中で、いかに自分らしい世界を創造・表現できるか。回を重ねるごとに引き出しは増えていますが、それをどこまで広げることができるかと、常に挑戦する気持ちで今も模索し続けています。
「ファッションはトータルな文化である」と考えている僕にとって、コレクションのテーマを決める際の最初のきっかけになるのは、小説や音楽、絵画、映画など。そして、琴線に触れる作品に出会うと、必ずその舞台となった場所を訪れ、その世界を肌で感じるようにしています。そうすることで、今自分が伝えたいメッセージが明確になり、服づくりのイメージへとつながっていくのです。これまでに選んだテーマは、ソローの『森の生活』やサリンジャーの『ライ麦畑でつかまえて』、シャガールなど。そこに新しい匂いを加えて、ファッションとカルチャーを融合させた、自分らしい表現を形作る。それが、僕の服づくりにおける原則です。
振り返れば、学生時代はとても刺激的で楽しい毎日でした。様々な感性や個性を持った人間が集まっていて、自分が詳しくないジャンルについて学ぶ良い機会にもなりましたし、先生方とも本音の付き合いができてとてもプラスになりました。そんな経験を踏まえて後輩たちに伝えたいことは、「食わず嫌いにならずに、できるだけ色々なものに触れてみる」ということ。好みでないから、興味がないからと否定してしまうと、決して前に進むことはできません。色々やってみて、その中で自分が本当に好きなものや、やりたいことを見つければいい。そして、これだ!というものを見つけたら、苦しくても諦めず、常に前を向いて夢を追い続けてほしいと思います。
FACTOTUMデザイナー/ファッションビジネス学科/1993年3月卒/卒業後、BEAMSを経て、1998年にラウンジリザードの設立に参加した後、2004年に独立し、自身のブランド“FACTOTUM”を設立。ラテン語で「勝手に生きろ」という意味のこの名は、彼の好きな作家の一人、チャールズ・ブコウスキーの小説のタイトルに由来しているという。「コンセプチュアルな服作りで、ひとつの文化としてファッションを発信していきたい」という想いのもと、ミリタリーやワークをベースにした洗練されたリアルクローズを展開。2007年からは東京コレクションにも進出するなど、日本のメンズシーンをリードするブランドへと成長を遂げている。