私が描いているのは、自分がこれまで見てきたものや、日常目にする風景。なんでもないひとコマのなかに、そこに佇んだときの温度や湿度、その場所にいた人の記憶や気配がぼんやり残っているような、目に見えない雰囲気も伝えたいと思って描いています。卒業後、絵の道でやっていこうと自己流でホームページを作ったら「個展をしませんか」と声をかけてもらったところから8年。今はSNSで発信している作品にリアクションをいただくことも。知らない人が個展に足を運んで「分かります、この感じ」と話しかけてくれて、私の絵を、私自身も思いつかない言葉で言語化してくれる。そのたびに「そう!それなんです」と、奇跡に出会えたように嬉しいです。
小さいころから絵を描くのが大好き。小学校低学年のとき、本屋でカットイラスト集を見つけ、世の中には絵を描く仕事があるんだ!と感激したのを覚えています。そこからは文集の「将来の夢」には必ず「イラストレーター」と書いていますね。この専門学校を選んだ理由は「イラストレーション学科」と絵に特化したコースがあったから。2年次修了後はイラストレーターとして就職活動をするか、研究科に進むかをギリギリまで迷っていました。でも、その頃すごく落ち込んでいた時に、ある絵を見てボロボロ大泣きしてしまったんです。「私も、こんなふうに人の心を動かせる作家になりたい」と強く思い、より深く絵に向き合うために、進学を決めました。
最初の1年は、多彩な課題をどんどんこなしていきます。本の表紙を描いたり、商品のロゴデザインを展開したり、キャラクターグッズを作ったり…。スキルアップしていくのが自分でも分かるので、ただもう楽しかったですね。2年次では自由にテーマを決めて描き始めるのですが、「あれ、私って何が描きたいんだっけ?」と初めて壁にぶち当たりました。自分と向き合う方法に悩む私に、先生がくれたアドバイスが「自分の原風景を大切に」。自分のなかにゆるぎない故郷のような風景を持つこと、それは、今も私の作品に色濃く表れています。先生が個展を見に来てくれた時には「あの時のアドバイス、生きてますよ」って、絵を通して伝えたつもりです。
フリーランス/イラストレーション学科/2011年卒/2年次修了後、学びを深めるために研究科に進学。卒業後、本名である「八太栄里」として独立し、様々なアートフェアや企画展に参加。主にアクリル絵の具での完全手作業にこだわる理由は「目に見えない風や空気まで表現するために、その感覚を大切にしたい。絵具を溶いて、キャンバスにうつす手の感覚もそのひとつで、それが好きなんです」と話す。「自分が描きたいものを見出していくには、創作以外の時間も必要」と、知らない場所に出かけたり、日に一度は外に出て、風景を五感でインプットしているそう。目標は「海外でも展示をすること。いつか作品が美術館に所蔵されるような作家になりたい」。