JICA(国際協力機構)が途上国での技術協力として世界各地で推進しているのが、大分県発祥の地域おこし「一村一品運動」をモデルとしたコミュニティビジネスを広めるプロジェクトです。私は中央アジア・キルギスで、最初はJICAの青年海外協力隊、その後はプロジェクト専門家として6年半にわたり、このプロジェクトに携わりました。限られた期間と予算、さらに異文化の中で、計画通りに進まない場面は数多くありました。同時に、苦労をした分だけ得られる達成感は大きく、私を含むスタッフ全員がプロジェクトを通じて成長できたと実感します。キルギスの人々が自立への一歩を踏み出し、10年、20年と続く仕事に関われたことに喜びを覚えています。
国際協力に関心があった私は、大学時代にインドネシアに暮らす低所得者の人々の支援活動に参加しました。しかし現場に出て初めて、「私にできること」が何も無いと気づいたのです。この挫折から国際協力の道を一度は断念し、卒業後は国際物流企業に就職しました。世界経済の動きを体感できる国際物流の仕事は楽しく、災害時には被災地支援にも携わるなどやりがいもありました。それでも国際協力への思いを抑えきれず、入社5年目に退職を決めてJICAの青年海外協力隊に参加しました。少し遠回りしたようではありますが、コミュニケーションを通じて人や組織を動かすスキルという「私にできること」が、この企業経験から身についたと感じています。
国際協力の世界では多くの人が大学院に進学し、修士号を取得してから現場に出ています。さらに博士号ももっていればなお好ましいとされる世界です。だからこの世界で活躍するための一つの正攻法としては、大学院への進学がポイントといえるでしょう。かくいう私はこの正攻法で入ったのではなく、大学卒業後は会社員を経て、青年海外協力隊、そしてプロジェクト専門家になりました。企業での経験は遠回りのように見えて、実は専門性やスキルを磨く上でとても重要だったと考えています。皆さんもまずは興味のある分野から数多くの経験を積み、自身の強みとなる知識やスキルを身につけることで、目標を絞り込んでいくと良いかもしれませんね。
JICA(国際協力機構)/外国語学部 国際言語文化学科 (現アジア言語学科)インドネシア語専攻/2008年卒/インドネシア・ジャカルタ生まれ。父の仕事の関係で3歳まで暮らしたインドネシアに自身との縁を感じたことから、大学ではインドネシア語を専攻。大学卒業後、大手国際物流企業を経て、2013年にJICAの青年海外協力隊としてキルギスへ渡る。2016年から2020年まで、JICAが進める「キルギス 一村一品・イシククリ式アプローチの他州展開プロジェクト」の専門家として現地での業務調整に携わる。