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外国文学のここが面白い

言葉の働きやメカニズム、文化・社会的背景、読者や社会に与える影響などを多様な角度から分析していくと、一人の人間を深く理解できてきます。これぞまさしく文学の醍醐味です。(東京大学大学院 人文社会系研究科 阿部公彦教授)

※このコンテンツは2018年の取材に基づき構成しています

一人の人間を深く理解できる

一人ひとりの人間が何を考えているかをのぞき込んでいく

文学のジャンルには詩、戯曲、評論、そして小説があります。小説は18世紀に入ってから生まれた比較的新しいジャンルです。これに先立ち近代個人主義の土台になる考え方が次第に芽生えており、パブリック(公的な)とプライベート(私的な)という区別をして、例えば人前で私生活についてはあまり話すものではない、といったマナーが共有されるようになります。
しかし、おもしろいもので、そんな風潮が生まれるとかえって他人の私生活を知りたくなるのが人間。小説が人気をもつようになった背景には、そんな好奇心を満たしたいという欲求もありました。と同時に、小説には社会と個人との葛藤を描いて問題を示したり、他者理解や他者への共感を誘ったりする力もあります。「他者とは何か」という永遠の問題を考えるのに、小説はもっとも有効な回路の一つだと言えるでしょう。
小説の中では言葉はとてもおもしろい働き方をするのでそのメカニズムを検証するだけでもいろいろな言葉についての発見にたどりつきますし、さらに小説の文化・社会的背景、読者や社会に与えた影響などを、さまざまな角度から分析していくと、100年も200年も前の時代を生きたある人物が、そこで何を考えて生きていたのかをのぞき込むこともできます。同様に訪れたことのない外国のこと、人、そして文化や価値観を知ることもできてしまうのです。

他の学問領域の知見をのびのびと使える

文学研究のジャンルの一つに、英国を中心に発達した「批評研究」があります。近代批評はもともとは文学テクストの精密な読解を目標としていましたが、その後、精神分析やマルクス主義(経済学)、言語学、文化人類学、社会学、心理学、歴史学などの知見を貪欲に取り入れ、大きな領域をカバーするようになりました。
大学の授業にも批評を扱う科目があり、興味関心に応じて各分野の知識を得ることができます。こうした学びの先に得られる研究テーマは実に多様で、一編の小説が社会に与える影響を考察することもできれば、、作家の生い立ちやトラウマについて分析することもできますし、作品が読者にもたらす心理作用についての研究も深めていけます。
どの研究も自分の関心から芽生えたテーマに基づいていますから、たとえ苦労が多くともそれに匹敵するやりがいを感じるでしょうし、焦点のおきかた次第でいろんなプロジェクトが生まれるというのも、この学問のおもしろいところでしょう。

取材協力:東京大学大学院 人文社会系研究科 阿部公彦教授

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