中国料理は大量の油と強い火力を使う豪快な料理というイメージがありますが、実は食材本来の味や香りを生かすための下ごしらえや火力の微妙な調節を必要とする繊細な調理法です。私は修業時代に香港出身の師匠から「料理は香りがすべて」と教えられました。食材によって香りの引き出し方は違いますし、同じ食材でも季節や産地によっても変わってきます。私が教員として心掛けているのは、料理に対する多様な視点を伝えていくこと。食材の旬を知り、おいしいものをおいしい時期に料理するという考え方も大切です。大量に流通する商品ではなく、地元で作られる農産物を活用する「地産地消」という取り組みが重要性を増す現在、確かな調理技術はもちろん、料理への深い理解や食材に対する思いを持った調理師を育成することが私の役目なのだと思います。
大岩先生は「調理は真似から始まります」と言う。初めは思い通りにならなくても、毎日、繰り返すことで徐々に進歩していき、やがて自分のオリジナリティを付け加えることができるようになる。そのプロセスにおいて大切なのは、調理を楽しむこと。「楽しいからこそ、お客様に喜んでもらおうという気持ちも高まり、調理のリズムも良くなります。それは調理実習でも同じです」という言葉通り、真剣さ、賢明さを求めながらも、和やかな雰囲気の中で授業は展開され、その繰り返しによって火加減や香りの重要性を学んでいくことになる。
人が口に入れるのは食べ物と薬しかありません。そして、人の体を作ることができるのは食べ物だけです。そういう重要な役割を担っているものに関わる職業なのだというプライドを持って調理師を目指してください。
専門:中国料理
高校時代は保育園の先生をめざしていたが、地元の山梨で飲食店を営む両親の勧めもあり、卒業後は東京の中華料理店で調理師としての第一歩を踏み出す。その後、ウェスティンホテル東京に入社。広東料理レストラン「龍天門」で腕をふるい、やがて料理長として長年にわたり陣頭指揮を執ることに。在職中、香港のホテルやレストランでの修業も経験。退職後、高級中華料理店でメニュー開発などに携わり、2021年より現職。