看護師は、希望と熱意を持って医療の世界に飛び込んできた方々がほとんどです。しかし、患者の意思が尊重できないような苦しい状況に直面し、目の前の現実や自分の倫理観とのギャップに苦しむ方も多く、早期離職が絶えません。これは社会にとって大きな損失です。このような状況を食い止めることを目的に、看護職者のための教育プログラムを開発・実施してきました。倫理的な悩みを抱える看護師が、高い専門性をもった先輩看護師(CNS)による指導のもと、自らの努力によって困難を乗り越えるプロセスを経験することで、「自分は目標を達成する力や、さまざまな可能性を持っていること」を自覚してもらう取り組みです。今後はこのようなプログラムをより発展させていくために、海外とも連携をしながら国際共同研究を企画したいと考えています。
看護の「正しさ」を考える「看護倫理」が、私の担当科目です。現実には単純に白黒つけられることは少なく、物事の数だけ正しさがあります。それは医療現場でも同じです。たとえば、難病患者がいたとします。治療の継続には苦痛が伴い、患者は治療を止めることも考えています。「治療継続を説得すべきか」「患者の意思を尊重すべきか」。そのような判断の難しいさまざまな事例をもとに、グループで対応を考えディベートを行います。これからの社会でより一層重要となる、広い視野をもって自ら考える力を、この授業を通して育みたいです。
看護師は人の生死にかかわるさまざまな事柄に出会います。それは「生きるとは何か」を考えるきっかけとなり、きっとあなたの人生を豊かにする経験になると思います。ぜひその一歩を本学で踏み出してください。
日本赤十字医療センターに看護師として勤務し、ウィスコンシン大学ミルウォーキー校看護学部に留学。筑波大学大学院医科学研究科でメチル水銀の毒性、酸化代謝産物による神経細胞の変性を研究し、博士(医学)を取得。日本赤十字看護大学、産業医科大学産業看護学教授、神戸市看護大学基礎看護学分野教授などを経て、神戸市看護大学名誉教授を務める。2024年4月大阪歯科大学看護学部の教授に就任予定(2023年3月現在)。