私は現在「ザ・リッツ・カールトン日光」のメインキッチンで働いています。これまではオムレツ・エッグベネディクトをはじめとした朝食の卵料理などを担当してきましたが、最近はディナーの前菜なども作らせていただけるようになりました。日頃、心掛けているのは国際的なホテルにふさわしい料理を妥協せずに作るということ。毎日、緊張の連続ですが任せてもらえることが増える楽しみもあり、だからこそ、もっと技術を磨こうという意欲も湧いてきます。総料理長の域に達するまでにどれほどの時間を要するのか見当もつきませんが、お客さまに味も香りも盛り付けも満足していただけるフレンチが作れるようになりたいと思っています。
幼い頃、母が留守にしている休日の昼などに父が食事を作っている姿を見て「カッコいいな~」と思ったことを覚えています。その後も漠然と料理を意識していましたが、「調理師になろう」という気持ちが固まったのは、高校の特別授業に来てくださった新宿調理師専門学校の先生のお話を聞いてからです。記憶に残っているのは「トマトは収穫する時間帯によって水分量が変わる」というエピソード。料理は材料を切って調理して盛り付ければ完成するものと思っていたのですが、トマトの水分量の変化にまで気を配るというプロ意識に感銘を受け、そういう世界ならやりがいがあると思い、「この先生に教えてもらって調理師になろう」と決めました。
私は、昼間部の授業の補助をしながら夜間部で学ぶ「学僕制度」を利用して入学したため、他の学生に比べると自由時間は少なかったかもしれませんが、それを辛いと感じることがないほど充実した2年間でした。学僕には先生が行うデモンストレーションを補佐する役目もあるのですが、その技や細かい工夫を近くで見て勉強できる時間は学僕の特権ともいえます。また、大根のかつら剥きやオムレツ、厚焼きたまごなど、種目別の学内選手権に向けて自主練を繰り返したことも忘れられません。時には練習風景を撮影した動画を先輩に送ってアドバイスをもらったりもしていましたが、夜中に動画を何度も送り付けられた先輩は迷惑していたと思います(笑)。
ザ・リッツ・カールトン日光勤務/調理師本科 夜間部2年制/2020年卒/小学校入学前から料理に興味を持つようになった伊部さん。中学卒業時には調理師免許が取得できる高校への進学も考えたが、父親のアドバイスに従って普通科(神奈川県立霧が丘高等学校)に入学。在学中は野球部に所属していたが夏の県大会では「言葉にするのが憚られる成績」だったそうだ。卒業後は「兄弟が多かったので両親の金銭的負担を少しでも軽くしたい」という思いから授業料減免や生活費の補助が受けられる学僕制度のある新宿調理師専門学校に入学。卒業後、ハレクラニ沖縄を経て、2022年11月からザ・リッツ・カールトン日光に勤務している。