名古屋工業大学の関連ニュース
名古屋工業大学、フロンガスを医薬品に変換する製造プロセスの開発に成功
2018/8/20
名古屋工業大学の柴田哲男教授らは、産業廃棄物であるフロンガスから医薬品などの材料となるフッ素有機化合物を簡便に作り出す新しい製造プロセスの開発に成功した。
本プロセスは、有機フッ素材料の合成に必ずつきまとう製造費の問題を大幅に改善する足がかりになると大いに期待される。
フッ素を含む有機化合物は液晶、農薬、医薬品など私たちの日常生活に幅広く使用されていることから、本プロセスにより様々な製品の製造に好影響を及ぼすと考えられる。
本研究成果は,2018年7月31日に科学誌「Scientific Reports」のオンライン速報版で公開された。
【背景】
フッ素を含む有機化合物は,私たちの生活において欠かせないものとなっている。
たとえばパソコンや携帯電話などに用いられる液晶、フライパンなどのテフロン加工製品、農作物の育成に欠かせない農薬や殺虫剤、生活習慣病と因果関係の深い血中コレステロール値を下げるための薬や抗うつ薬、抗がん薬、エイズ治療薬に至るまで実に幅広い分野で使われているのだ。
さらには人工血液や人工血管などの医療用材料にもフッ素化合物が使われている。
そのためフッ素化合物を効率よく作る合成方法の開発研究が盛んに行われている。
しかしながら、フッ素を含んだ有機化合物は天然資源としてはほとんど存在しないために、植物や化石燃料からフッ素化合物を合成することは出来ない。
従って完全に人工物から製造しており大きな費用がかかっている。
とりわけ、医薬品や農薬など使われる有機フッ素化合物は、その化学構造が複雑であるため、いっそう製造費がかかり、有機フッ素化合物をいかにして安価に製造するかが重要な課題となっている。
【内容】
柴田教授らはこの問題を解決する鍵物質として、産業廃棄物であるフルオロホルムに着目した。
フルオロホルム(トリフルオロメタン)はフロン23と呼ばれるフロンガスで、蛍石から取り出すフッ酸からテフロンなどフッ素樹脂を製造する際に15000から20000t/年で産出されている。
オゾン層破壊係数が0で無毒性であるため,有機フッ素化合物(トリフルオロメチル化合物)の原料として魅力的であるものの、合成する際に必用なトリフルオロメチルアニオンをフロン23から発生させると、極めて不安低であるため取り扱いが難しく、フッ素材料としては全く不向きである。
さらにフロン23の大気中での寿命は250年以上と長く、地球温暖化係数は二酸化炭素の1万倍以上もあることから大気中への放出は規制されている。
そのため現在フロン23は、熱酸化や触媒的加水分解により処理されているが、その処理費用も莫大であるために、実際にはそのほとんどが貯蔵されている状態だ。
柴田教授らは数年前からフロン23の有効利用に関する研究を行っている。
2013年に構造的に大きな有機超塩基と呼ばれるホスファゼン塩基を用いると、フロン23から発生させた不安定なトリフルオロメチルアニオンが安定化されることを見つけ、その手法を用いて医薬品などの製造に有用なトリフルオロメチル化反応を実現した。
この研究は2012年9月に特許出願され、2013年1月にはイギリス化学会誌で公開された。
ほぼ同時期に、米国南カリフォルニア大学のプラカッシュ教授らも金属塩基を用いた手法にて、フロン23からトリフルオロメチル化合物を作り出すことに成功し、2012年12月にサイエンス誌にその成果を発表したことから、この研究の重要性が一般にも広く認識されるようになった。
しかしながらこれら2つの手法は、塩基が高価であったり、極低温での反応操作が不可欠であったりなど、実用化には問題点を残していた。
今回柴田教授らは、フロン23をジグリムと呼ばれる汎用ポリエーテル系溶媒中で安価なカリウム塩基と処理するだけで、不安定なトリフルオロメチルアニオンを分解させることなく、実に簡単に発生させることに成功した。
成功の鍵はポリエーテル溶媒がカリウムカチオンをカプセル化して錯体([CF3]-[K(tetraglyme)2]+,[CF3] -[K(triglyme)2]+)を形成し、分解の主要因であるトリフルオロメチルアニオンとカリウムカチオンとの接近を完全に遮断することが出来る点にある。この詳細な反応機構は計算化学的解析によっても明らかになった。
この新しいトリフルオロメチル化反応は,安価な塩基と汎用溶媒を組み合わせるだけで簡単に実施できる優れた手法であることから、フロン23の実用的利用に向けた大きな足掛かりになると期待される。
本研究成果は、長年廃棄物でしかなかったフロン23の存在価値を覆すものになるだけでなく、製造コスト問題がつきまとうフッ素医薬品や液晶材料の製造プロセスにも大きな革命を及ぼすものだ。
今後本研究成果をもとにフッ素医薬品の製造にかかるコスト削減に向けた大きな足掛かりになると期待される。
■詳細リンク先(https://www.nitech.ac.jp/news/press/2018/6885.html)
本プロセスは、有機フッ素材料の合成に必ずつきまとう製造費の問題を大幅に改善する足がかりになると大いに期待される。
フッ素を含む有機化合物は液晶、農薬、医薬品など私たちの日常生活に幅広く使用されていることから、本プロセスにより様々な製品の製造に好影響を及ぼすと考えられる。
本研究成果は,2018年7月31日に科学誌「Scientific Reports」のオンライン速報版で公開された。
【背景】
フッ素を含む有機化合物は,私たちの生活において欠かせないものとなっている。
たとえばパソコンや携帯電話などに用いられる液晶、フライパンなどのテフロン加工製品、農作物の育成に欠かせない農薬や殺虫剤、生活習慣病と因果関係の深い血中コレステロール値を下げるための薬や抗うつ薬、抗がん薬、エイズ治療薬に至るまで実に幅広い分野で使われているのだ。
さらには人工血液や人工血管などの医療用材料にもフッ素化合物が使われている。
そのためフッ素化合物を効率よく作る合成方法の開発研究が盛んに行われている。
しかしながら、フッ素を含んだ有機化合物は天然資源としてはほとんど存在しないために、植物や化石燃料からフッ素化合物を合成することは出来ない。
従って完全に人工物から製造しており大きな費用がかかっている。
とりわけ、医薬品や農薬など使われる有機フッ素化合物は、その化学構造が複雑であるため、いっそう製造費がかかり、有機フッ素化合物をいかにして安価に製造するかが重要な課題となっている。
【内容】
柴田教授らはこの問題を解決する鍵物質として、産業廃棄物であるフルオロホルムに着目した。
フルオロホルム(トリフルオロメタン)はフロン23と呼ばれるフロンガスで、蛍石から取り出すフッ酸からテフロンなどフッ素樹脂を製造する際に15000から20000t/年で産出されている。
オゾン層破壊係数が0で無毒性であるため,有機フッ素化合物(トリフルオロメチル化合物)の原料として魅力的であるものの、合成する際に必用なトリフルオロメチルアニオンをフロン23から発生させると、極めて不安低であるため取り扱いが難しく、フッ素材料としては全く不向きである。
さらにフロン23の大気中での寿命は250年以上と長く、地球温暖化係数は二酸化炭素の1万倍以上もあることから大気中への放出は規制されている。
そのため現在フロン23は、熱酸化や触媒的加水分解により処理されているが、その処理費用も莫大であるために、実際にはそのほとんどが貯蔵されている状態だ。
柴田教授らは数年前からフロン23の有効利用に関する研究を行っている。
2013年に構造的に大きな有機超塩基と呼ばれるホスファゼン塩基を用いると、フロン23から発生させた不安定なトリフルオロメチルアニオンが安定化されることを見つけ、その手法を用いて医薬品などの製造に有用なトリフルオロメチル化反応を実現した。
この研究は2012年9月に特許出願され、2013年1月にはイギリス化学会誌で公開された。
ほぼ同時期に、米国南カリフォルニア大学のプラカッシュ教授らも金属塩基を用いた手法にて、フロン23からトリフルオロメチル化合物を作り出すことに成功し、2012年12月にサイエンス誌にその成果を発表したことから、この研究の重要性が一般にも広く認識されるようになった。
しかしながらこれら2つの手法は、塩基が高価であったり、極低温での反応操作が不可欠であったりなど、実用化には問題点を残していた。
今回柴田教授らは、フロン23をジグリムと呼ばれる汎用ポリエーテル系溶媒中で安価なカリウム塩基と処理するだけで、不安定なトリフルオロメチルアニオンを分解させることなく、実に簡単に発生させることに成功した。
成功の鍵はポリエーテル溶媒がカリウムカチオンをカプセル化して錯体([CF3]-[K(tetraglyme)2]+,[CF3] -[K(triglyme)2]+)を形成し、分解の主要因であるトリフルオロメチルアニオンとカリウムカチオンとの接近を完全に遮断することが出来る点にある。この詳細な反応機構は計算化学的解析によっても明らかになった。
この新しいトリフルオロメチル化反応は,安価な塩基と汎用溶媒を組み合わせるだけで簡単に実施できる優れた手法であることから、フロン23の実用的利用に向けた大きな足掛かりになると期待される。
本研究成果は、長年廃棄物でしかなかったフロン23の存在価値を覆すものになるだけでなく、製造コスト問題がつきまとうフッ素医薬品や液晶材料の製造プロセスにも大きな革命を及ぼすものだ。
今後本研究成果をもとにフッ素医薬品の製造にかかるコスト削減に向けた大きな足掛かりになると期待される。
■詳細リンク先(https://www.nitech.ac.jp/news/press/2018/6885.html)