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多様な業界で最新テクノロジーの導入が進む近年、人間の仕事がAIや機械に奪われるのではないかと懸念する声も聞かれますが、モノづくりに携わる家具職人の仕事は、これから20年後・30年後、どう変わっていくのでしょうか。また、家具職人を取り巻く環境の変化についても見ていきましょう。
人の「心・感性」が入った家具は機械にはできない
ここ最近、熟練した経験や多大な労力を必要とする作業をAIに代替させる、次世代型ファクトリーオートメーション機器の開発が進み、製造業の生産工程の最適化や品質向上を図る最新テクノロジーとして注目されています。そうしたなか、大手メーカーを中心にオートメーション化が進む家具業界の製造現場でも、今後、AIやIoT技術の導入が加速していくことは間違いないでしょう。
では将来、家具職人の仕事がすべて機械やAIに取って代わられる可能性はあるのでしょうか。ある職人は「それは断じてない」と言い切ります。上質さやデザインにこだわった手づくりの家具は、いつの時代も根強いニーズがあり、愛着のわく自分だけの一点物を求める人も多いからです。
今後、AIなどの進化とともに、家具づくりも機械による大量生産と、職人による手仕事の二極化がますます進んでいくことが予想されます。しかし、人間のアナログな感性と感覚、微妙なセンスを生かした「本物の手づくりの家具」は、けっして機械にはつくり出せないでしょう。ましてや、その家具職人だけがつくり出す独自の形状・味わい・希少性は、機械にはもちろん、誰も真似することはできません。そこに作り手の感性と心が入ることで、家具に唯一無二の価値が生まれるからです。
木のこの部分のキズを削るか残すか、どこまで削れば木目の味わいが出るのか、木をどう曲げてつないでいくかなど、一つひとつ異なる木の表情をいかに生かして魅力的な家具に仕上げていくかは、作り手の思いにゆだねられています。家具は木という自然素材を使ってつくるものだからこそ、人間である作り手の技や感性、気持ちや心というものが生きてくるのです。
家具職人を取り巻く環境が変わりつつあるなかで
一方、家具職人を取り巻く環境については、将来的に懸念される点もあるようです。それは、家具づくりに欠かせないノミ・カンナなどの工具を作る鍛冶職人の減少です。後継ぎがいない鍛冶職人の高齢化が年々進み、このままでは伝統的な鍛冶技術が途絶えてしまう可能性も指摘されています。鍛冶職人が仕上げた刃物の切れ味は、機械ではどうしてもつくり出せないため、鍛冶技術の伝承が途絶えてしまうのは、木工に携わるすべての職人にとって非常に深刻な問題なのです。
ここ近年は、伝統工芸品を手がける職人も高齢化・後継者難で年々減っており、その存続が危ぶまれている業種も少なくありません。そうしたなか、熟練職人の技術・技法などを文献として残し、貴重な伝統文化として地域で受け継いでいこうという動きもあるようです。
ある家具職人は「伝統の技が途絶えてしまう前に、知識として残すだけでも大きな価値がある。同じ職人として、こうした動きに自分も協力していきたいし、機械化が進む家具づくりの世界でも、職人が培ってきた技を後進に伝え、残していけるよう尽力したい」と話します。
伊藤 洋平
1996年より英国にて家具のデザインと制作を学ぶ。帰国後、2004年に伊藤家具デザイン設立しオリジナル・注文家具のデザインと制作を始める。2010年より本格的な家具デザインと制作技術を学べる「八王子現代家具工芸学校」を開校。ものつくり大学・日本工学院八王子専門学校非常勤講師、八王子市観光PR特使。
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