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「音楽が好き」「歌うことが好き」という人は少なくありませんが、プロのシンガーソングライターとしてメジャーデビューすること、活躍し続けることは簡単ではありません。多くのシンガーソングライターが、なかなか芽が出ない「下積み時代」を経験しています。葛藤を乗り越え、メジャーデビューを果たしたシンガーソングライターはどのようなことに悩んだのでしょうか。
劣等感の塊だった大学時代、初めて音楽を作ったときの衝撃
実は高校生くらいまで、私はやりたいことが見つかりませんでした。水泳、野球、体操、ブラスバンドなどいろいろなことに挑戦しましたが、どれもあまり長続きしませんでした。建築士になろうと思い、大学の建築科を受験したのですが、うまくいかず、進学したのは土木科でした。いきたい学部に入れなかったこともあり、モチベーションも上がらなければ、夢をもってがんばっている人がまぶしく見えて自分に自信がもてず、心の中は劣等感でいっぱいでした。
音楽は以前から好きで、中学生の時にギターを買い、学園祭で誰かの曲をコピーしたこともあったのですが、大学生になって初めて、自分で曲を作りました。その時に、ずっと自分の内側に向かっていた劣等感の矢印がくるりと反転して、外の世界に向かって心が開いていくという経験をしました。「音楽には、生きていくことを肯定する力がある」という強い実感や、音楽が大好きという思いが、音楽活動をするうえで、私の原点になっています。
バンドを休止し、ソロになってからおとずれた「下積み時代」
デビュー後はヒット曲にも恵まれ、20代はレミオロメンとして駆け抜けました。レコーディングやツアー、テレビやラジオへの出演も、ずっと同級生のメンバーと一緒で、ある意味家族よりも濃い関係だったと思います。とても充実した時間でしたが、10年間ずっと走り続けているうちに、バンドとして「僕らは」という主語で歌うだけでなく、藤巻亮太という個人として「僕は」何を考えているのか、その思いを音楽で表現してみたいという気持ちが生まれてきました。
そこで2012年からソロ活動をスタートしたのですが、一人で曲を作り、ステージに立つようになって初めて、これまでの自分がたくさんの人に支えられていたことに気づきました。これから自分は何を歌っていけばいいのだろうと迷った時期もあります。悩んでいた時、雑誌の対談で知り合った登山家の方と一緒に、ヒマラヤを旅する機会がありました。物理的に遠く離れた場所へ行き、ひたすら山道を歩き続ける日々の中で、日本でシンガーソングライターとして歌っている自分を客観的に見ることができるようになりました。見えない縄で、自分自身を縛っているような状態だと気づいたのです。
本当は、最初から縄なんてなかったのだと気づいた時、曲を作ること、歌うことを素直に楽しめるようになりました。バンド時代の音楽と、ソロになってからの楽曲はまったく別のものだと思っていたけれど、どちらも私自身が生きてきた証で、地続きのものだと今では考えています。
最近では、レミオロメン時代の楽曲を、弾き語り中心のアレンジでカバーしたアルバムを制作しました。レコーディングは本当に楽しくて、いつもはどこかで行き詰まることが多いのですが、今回は驚くほどスムーズに進み、当初予定していたよりも曲数が増えてしまったくらいです。
藤巻亮太
山梨県笛吹市出身。レミオロメンの一員としてメジャーデビューし、「3月9日」「粉雪」など数々のヒット曲を世に送り出す。2012年、ソロ活動を開始。2018年より、自身主催の野外音楽フェス「Mt.FUJIMAKI」を地元山梨で開催するなど、精力的に活動の幅を広げている。 公式HP:http://www.fujimakiryota.com/
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